過去と現在が交錯する記憶のきらめきを香りで写し取る作品として、2013年に誕生した。本作はイネス&ヴィノードによる写真作品「Kirsten 1996」へのオマージュから着想を得た。トップではジュニパーベリーの清冽な緑とブラックペッパーのスパイシーな刺激が立ち上がり、瞬時に新鮮な緊張感をもたらす。ミドルではアイリス(オリス)やスミレがほのかな粉っぽさと繊細な甘さを帯び、レザーアコードが温かく官能的な対比を描き出す。ラストではパチョリの深い土壌感、ブラックアンバーのほのかな樹脂的甘さ、バニラの穏やかな余韻が重なり、大地に根づく安堵感とノスタルジックな陰影を残す。名称「1996」は、写真に写る少女の無垢と暗い深層が共存するイメージを暗示し、時間の揺らぎや二面性、記憶の鮮烈さと儚さを香りで表現する意図を携えている。香調プロセスには、冷たい緑の透明感と、温かい革の温度感、そこに漂う粉っぽい花のニュアンスを構造的に組み込み、着用時に心の奥底を揺さぶるような対話的体験を提供する。発表当初から写真やアート好きの間で話題を呼び、香りそのものが記憶への誘いと自己探求を促す一品として評価されてきた。中立的に詩情を交えつつ、過去と現在、光と影が交差する瞬間を繊細に描写する。